Essay

ネットで喧嘩


 そのページはホンの偶然で検索エンジンで見つけました。
「オピニオン系」というのか、攻撃的なトーン(一見、福田和也風)の コラム&パロディのページでした。全くの匿名サイトで作者の背景、素性は一切わかりません。 少し読むと「なんかオレが考えているようなこと書いている奴だな」と思えてきました。 (かなり面白い内容で文章も上手だったので、この感想も私の不遜さを示してもいますが) それで、「同意な所は同意、同意しない所は同意しない」というような、 きわめて率直なメールを出したところ、数日後 「あなたは私と揉めるタイプのど真ん中ですね」という思い切り喧嘩腰な メールが来ました。この人のページはそうゆう「読者との揉め事」が、 ネタの大事なカテゴリとなっていたので、私の方も面白がってやんわりと喧嘩腰な (というのもヘンな表現ですが)メールを出したところ、案の定、ほぼ全文掲載の上、 徹底的にこき下ろすという内容をページにアップして来ました。
 それもある程度予想できた展開で、しかもアップされた内容を第三者的に読めば、 それなり面白かったので、アタマに来た半面、 やっぱり「喧嘩はネットの華だなあ」とも思いました。 大抵の「揉めた読者」はそこらへんで逆ギレしたようですが、わたしはそれでも、 「やんわり喧嘩腰」のメールを出しつづけ、断続的に何ヶ月かネット喧嘩は続きました。  当時のメールを保存していないので、もうどんなやり取りだったかあまり記憶にないのですが、
「なぜ読者の皆さんは私が読んで欲しいように読んでくれないのか?なぜ、私が嫌がるような メールをわざわざ送りつけてくるのか?」
というのが一貫した主張ではありました。 私の考えは「作品は誰のもの」で書いたように 「読み方は読者の自由」ということなので、ここの所はずっと平行線でした。 実際 「どういう分野の作品であれ、いったん公にされたものは、 作者のものであると同時に受け取り手、あるいは社会の ものにもなる」 という考えを直接ぶつけてみたところ、 「どうせそういう嫌らしい考えなんだろうと思っていた」という反応でしたから。  そんなやりとりしているうちに、その人は「読者と揉める」のに マジで疲れきってしまったようで、ページを閉鎖してしまいまいした。
 ところがその後半年以上もたって突然、その人からメールが来て、 「実は私は作家志望の子持ちの主婦でした」というタネあかしがありました。 てっきり、男(それも多分未婚)だと思っていたのでかなりビックリしました。 確かにいわれてみれば、どこを読んでも「私は男だ」とは書いてはいない。 ただ、普通に読めばどう見ても男としか読めないような文章ではありました。 これについては本人も意識的に(男と思わせるような)ミスリーディングな 書き方をしたと認めてました。
 なぜざわざ男みたい書いたんだろう。この辺からどうも怪しくなってきましたが、 それでも、断続的にネット喧嘩は続きました。
(喧嘩相手)
「なぜ、読んでもらいたいように読んでくれない。しかもそのことをメールしてくるのか?」
(私)
「どう読むかは本人の勝手。メールアドレスを公開しているんだから、メールが来て当然、いやなら読まなければいい」
というような平行線は一向に変化しませんでしたが。
しかし、平行線な議論の割りには異常なほどからんでくるので、ついに何人かの友人に相談しました。
「これ(喧嘩相手の論理)って普通だろうか?」と。
すると、友人精神科医から思わぬ返信が...
「それは典型的なトラウマ持ちである。かなりの虐待的に育てられた人であろう。 このタイプの人は自分に対してほんの少しでも否定的な言説に過剰に反応する。」ですと。
以下ちょっと長いが引用します。

作品作る以上はどんなリアクションがあっても仕方ない、それどころかひどい リアクションが沢山あるならインパクトがあったりオリジナリティある証拠、 という見方は、creater続けるならどうしても必要だから、その直面化はする よね。でも、そういう理屈がわかるかどうかは、育ちに関係あるんです。
本当に虐待的な養育があったかどうかまではもちろん決めつけられないけれ ど、そのリアクションは、ネット上のことだけではとうてい了解はできない ね。
とにかくご苦労様でした。でも、そういう世界(メンタリティ)に住んでいる 人がいる、っていうのは知っていて悪くないのじゃないか。こういう人は昔は あまり大きな声は出さなかったのだと思う。

 いやあ、ビックリしました。これってホントだろか?
 「俺は、虐待されて育った病人を弱い者いじめしてたんだろうか?」と思いさすがに 暗くなりました。
 まさか、「病気とは知らず、悪いことしたね」って書くわけにもいかず、 結局、それ以来メールのやり取りはありません。(半年くらいすると、 思い出したように書いてくる人だったので、これだけブランクがあるということは もう一生書いてこないでしょう)。しかしなんとも言えない結末でした。
 どこの誰とも分からない人ですが、こういう人と巡りあったのは初めて。 文章を読む限り、かなり才能がある人のようでしたので、普通だったらマイナスに働く 気質を活かして生きていってもらいたいものだと思います。(アーティストにとって 狂気は財産ですから)

それもきっと「余計なお世話のまたまた上塗り」って思われるんだろうなあ。

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