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ギター大計画(その4)


ピックアップ地獄

 ギター本体を用意したので、今度はピックアップ選定となります。今回の計画の発端である新製品「Carlos」ピックアップをはじめ、 店頭で試奏できるピックアップはすべて聴いてみました。(といっても5,6種類ですが)
 ところで、この「Carlos」ピックアップについてネットで検索しようとすると、 ほとんどヒットしません。メーカのページにたどり着くのも意外と大変でした。 その過程でいろいろなページを見ていると、私の知らないピックアップがゴマンと あることに気づきました。
 アメリカはやはりギター人口が多く、アコースティックギターのピックアップ という比較的マニアックな領域でもレビュー記事はたくさんあります。  特にユーザーレビューを読むと、「何十年もプレイしているが、やっと満足のいく ピックアップに出会った」というような記事が数多くあり、本当に層が厚いのがわかります。 後付けピックアップをわざわざつけるということは人前で演奏することが前提ですから、 何十年も人前でプレイしつづけているいるおじさん(/おばさん)がたくさんいるということで、 さすがですね。(日本でも私くらいの世代で、若い頃やっていたギターを再び始める人が増えているようですが、 継続してやっている人口はやはり少ない)
 それで、たとえば以下のようなページがあるわけです。
http://www.dougyoungguitar.com/pickuptest.htm

これは大変に包括的なテストで非常に参考になりました。
 ここで得た結論は
  1. 複数の方式を組み合わせるとよい
  2. ライブ演奏における堅牢性1[注]と、生のギターに近い音色は相反する条件であり両立しにくい
ということです。この2つは相互に関連があり、 2.の条件があるため、堅牢性の高いピックアップをメインとして、 生のギターのニュアンスを再現するピックアップ(堅牢性が低い)を、 隠し味的に加えてやるのが、ひとつの定石となるわけです。
 で、機種選定しなければなりませんが、上記ページやメーカーのページの サウンドサンプルを何十回も聴き、ユーザーレビュー、専門家レビューを読み、 本当に迷いました。まさにピックアップ地獄の夜で睡眠不足の日々が続きます。
 しかし自分ではプレイしない人が上記ページのサウンドサンプル等を聴くと、
「全部、おんなじなのになんで迷うのか?」
という素朴な疑問が浮かぶのではないかとも思います。リスナーからすると、 (プレイヤーからみてもそうですが)楽器・機材の差より、演奏者の差の方が はるかに大きいですから、ピックアップによる微細な音の違いなどは、それほど 気にならないかもしれません。うーーむ。ディテールにこだわりすぎてナンセンスに 陥っているのではないか?と何度も自問しました。
 「こういう微細なことの積み重ねが(きっと)大きな違いを生む」というもうひとつの 真実もありますが、とにかくハマりました。
 結局選定したのは「Carlos」ではなく(複数方式の組み合わせシステムが ないため断念)「B-Band」というメーカーのシステムでした。 生音に近いという観点では、マイクで収音したサンプルとほとんど区別がつかない ほどリアルなピックアップもあったのですが、2.のトレードオフを考えて ほどほどにリアルなサウンドのこのシステムを選びました。早速、楽器屋に電話して注文。しかし、問屋にも 在庫がない!。いきなり大計画に障害か?。
 いろいろ探してもらい結局モーリスの工場に出していた品を引き揚げてもらってやっと確保しました。
 これでようやくピックアップ地獄も終わり。取り付けのために楽器を預け(混みあっているため納期1週間、ずいぶん待たせるなあ)) 首を長くしていると5日後くらいに一本の電話が...。
<続く>
考察2−複数の方式を組み合わせるとよい結果が得られる原因
 ギターのピックアップというのはどのような方式であっても、基本的にギターの 特定の一箇所から音(振動)を拾います。ところが生のギターを聴くときは ギターの表面板のいろいろな位置から放射される音がミックスされて聞えてくるわけで、 一箇所でとった音はどうしても単純になりがちで、バランスも生のバランスとは ことなってきます。 たとえばブリッジ下に仕込まれたピックアップは弦の振動を直接ひろうため、 生できこえるギターの音より立ち上がりが早くクリアに聞えます。その反面、 表面板の「鳴り」があまり反映されません。表面板に貼り付けるタイプのピックアップは それよりは音の立ち上がりは遅くなりますが、バランスはでこぼこになりやすい 傾向があります。複数の方式を組み合わせることは結果的に複数の場所から音を拾う ことになり、いくらか生のギターの音を聴く状況に近くなるわけです。 (例えば立ち上がりの早い音と遅い音を組み合わせると奥行き感がでる)
 このようなわけで複数の方式を組み合わせるとよりよい結果が出やすいようです。
(注)演奏における堅牢性とは
 ライブ演奏の場で使われる楽器、機材はは、もちろんいい音色が出ることは重要なことですが、 それ以外にも「堅牢性」というファクター考えなければなりません。
 音響的な堅牢性にはたとえば「音が通る」ということがあります。どんなによい音色であっても、 他の楽器(とくに打楽器)にかき消されて聞き取れないのでは意味はありません。 大きな音の楽器の間に入ってもちゃんと聞える(飛んでくる)のが「音が通る」 ということです。また前にも書いた、「フィードバック(ハウリング)」しにくいというも、 重要な要素です。そして、運搬中、演奏中にこわれにくいというような、 物理的な堅牢性ももちろん前提として大事なことです。

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