Essay

加藤 崇之


 昨日(2004/4/13)加藤 崇之氏と共演しました。(蜂谷真紀+加藤崇之+山口友生 at 西荻窪「音や金時」)
 加藤氏は私より、少しだけ上の世代のジャズギタリスト。ジョージ大塚バンドの 先輩でもあります。
 日頃はフリーフォームな即興を得意とする加藤氏ですが、昨日はヴォーカルの蜂谷真紀さんの ブラジル風なオリジナル曲が主体のプログラムでしたので彼にとっては比較的オーソドックスな スタイルだったと思います。
 さて、ジャズをやっていると、ギタリスト同志の共演というのは意外と珍しいものです。 まして、両方ガットギター(ナイロン弦のアコースティックギター)というのは滅多にありません。 本番前に少しリハーサルをしましたが、そこで指慣らしに例によってバッハを弾いていると、 加藤氏が声をかけてきました。「お、それなんだっけ?バッハの何とかの3番だよね。」。 私が「無伴奏バイオリンのパルティータの3番ですよ」と答え、有名なガボットのテーマを弾いたら、 彼も、「おお、その曲か!、俺も1/3くらいはやったよ」といって同じテーマを弾いてくれました。
 それが実に「なるほどっ!!!!」と膝をたたきたくなるような体験でした。 大変に美しいギターサウンドだったのは言うまでもありませんが、 「あー、こういう弾き方もありなのか!」と思うくらい私とは違う演奏だったからです。 同じ譜面を弾いても演奏者毎に違った演奏になるというのは当たり前といえば 当たり前のことですが、同じジャズ奏者が同じ楽器で同じ曲を弾いて、ここまでくっきり違いが出ると やはり面白いですね。 どう違うかは言葉で表現するのは難しいけど、強いていえば加藤氏はスペインギター風、 私はチェンバロ風かなあ。聴いていた蜂谷真紀さんも「うーん、違うもんですねえ」と驚いてました。
 というわけでギタリスト2人は「共通したバックグラウンドと対照的な個性」で行くことになりました (別に取り決めしたわけではないですが)。ギタリストが2人いると、どうしても役割が重複してしまい、同じような事をしてぶつかったり、 逆にお互いに遠慮したりして、バランスを取るのが意外と難しいものですが、 加藤氏とは初共演だったのに、そういうことをほとんど意識せずに自然に演奏できたのも不思議なことでした。
 加藤氏の演奏は音色、和声、フレージングすべてが実に美しく、とくにフリーな展開でのソロギターの 即興は他ではまず聴けないだろうという世界を構築していました。 ガットギターを弾くジャズギタリストはエレキギターの持ち替えという印象の人が多いのですが、 彼の場合はそれとは全く違い、ガットギターネイティブな魅力をよく生かしていて、この楽器に取り組んだ時間の 長さと深さを感じました。
 ガットギターを生かした即興演奏というのは私自身も比較的自信をもっている分野なので、 (非常に自信過剰な)私がここまで感心するのは実はかなり珍しいことなのです。



 蜂谷真紀さんの不思議な曲が触媒となり、メンバー3人+ゲストに地元西荻のハーモニカ奏者 松本敏明も加わって、とても刺激的な「魔法の一夜」でした。

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