Essay

楽器について


 演奏に必要なものといえば、まず楽器ですが、 これが私達ミュージシャンにとっては、いろいろ悩ましい ことであります。
 先日、演奏のあと一休みに寄った店で、 友人K氏が「ギター買っちゃったよ」と話しています。 なんと40万円!もする1940年代のギブソンの アコースティックギターを入手したというのです。 (といわれても知らない人にはなんのことか分からない でしょうが、「ビンテージもの」の楽器であるとお考え ください)
 アマ、プロ合わせてなぜか店内にはギター弾きが4人も 居合わせたので大変。みんな弾かせろというわけで、 さっそく試奏会となってしまいました。 件のギターは枯れた味わいの音がでる、よい楽器でしたが、 ここで、「これは自分の楽器よりいい音だ」などと感じると 困ったことになります。
「俺ももっといい音の楽器を買えば、もっといい演奏が できるかも」という煩悩がむくむくと湧いてきて、 次の日から楽器屋に巡り歩き、一ヶ月後には借金の算段など しているかもしれません。
(私自身こういうことを何度も繰り返してます)

 冷静に考えれば、同じ人が弾く5万円と50万円ギターの違いなど、 大抵は些細なもので、普通に聴く人には分からないかも知れません。 実際、共演したサックス奏者がマウスピースをとっかえひっかえ試したあげく、 「どれがよかった?」なんて私に訊いてきたこともありますが、 「同じ人が吹いてるんだから似たようなもんだよ」としか 答えられませんでした。
 恐らくサックスにおけるマウスピースの違いは5万円と50万円 のギターの差みたいなものなんでしょう。 いずれにしても楽器の差が演奏者の差を越えて印象に残ることは 滅多にありません。  それじゃ5万円でもいいじゃないか、ということになりそうですが、 それもちょっと違います。 「この楽器の音はイマイチ」と思って演奏しているのと、 楽器を信頼して「いい音だな」と思って演奏しているのでは 大違いだからです。

「すべての満足は自己満足から始まる。」(私の標語)

というわけで、こういうオタッキーに見えるこだわりの積み重ね が、聴く人に「いい音だな」と感じさせる第一歩なのでは ないでしょうか。

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